結論:社内AIのセキュリティは、AIモデル名や「国内サーバー」という表示だけでなく、データの流れ・アクセス権限・外部送信・保持と削除・運営体制を一続きで確認するのが基本です。特に小規模企業では、最初から高度な認証機能を全部そろえることより、「自社の資料がどこへ行き、誰が触れ、いつ消えるか」を説明できるサービスかを見る方が実務的です。
まず確認したい10項目
経済産業省の「AI事業者ガイドライン 第1.2版」は、安全性、プライバシー保護、セキュリティ確保、透明性、アカウンタビリティなどを共通の重要事項として整理しています。IPAも2026年、AIシステムを企画・調達・技術検証・設計・運用・廃棄までのライフサイクルで管理する考え方を示しています。
社内AIを購入する側では、これを次の10項目に落とすと確認しやすくなります。
CHECK 01
データはどこに保存されるか
元資料、解析データ、検索インデックス、会話履歴がどの国・どの環境へ保存されるかを確認します。
CHECK 02
他社データとどう分離されるか
同じDBやアプリ基盤を共有するのか、テナントやインフラ単位でどう分離するのかを確認します。
CHECK 03
社内の閲覧権限を分けられるか
全社員向け資料と、人事・経営・管理職限定資料を同じ範囲で検索できてしまわないかを見ます。
CHECK 04
外部AIへ何を送るか
質問だけか、関連文書の抜粋か、元ファイル全文か。Embeddingも外部APIか。処理単位で確認します。
CHECK 05
学習利用と保持期間
「学習に使わない」だけで終わらず、監視ログやアプリ状態として何日残る可能性があるかも確認します。
CHECK 06
保存時・通信時の暗号化
HTTPS/TLSだけでなく、保存データやバックアップがどのように暗号化されるかを見ます。
CHECK 07
バックアップと復旧
バックアップの有無だけでなく、世代数、保存先、復旧方法、暗号化まで確認します。
CHECK 08
解約後に何がいつ消えるか
本番データだけでなく、バックアップ、ログ、暗号鍵、外部サービス上のデータも対象か確認します。
CHECK 09
運営者は顧客データを見られるか
保守担当者が常時閲覧できるのか、例外時だけか。アクセス方法と記録の考え方を確認します。
CHECK 10
誤回答をどう確認するか
AIは誤る前提で、出典表示、未回答、元資料確認など、人が判断を戻せる仕組みがあるかを見ます。
チェック1:データの保存場所
最初に確認したいのは、アップロードしたPDF・Excel・Word等がどこへ保存されるかです。ただし「国内データセンター」と書かれていれば十分、というわけではありません。
- 元文書ファイル
- 文書から抽出したテキスト
- 検索インデックス・ベクトル
- 会話履歴
- 操作ログ
- バックアップ
これらは別々の場所に保存されることがあります。「本番DBは国内でも、外部AIやバックアップは別地域」という構成もあり得るため、データ種類ごとに確認します。
チェック2:顧客間のデータ分離
SaaSでは複数社が同じサービス基盤を使うこと自体は一般的です。重要なのは、認証やアプリの不具合が起きても他社データへ越境しにくい設計になっているかです。
確認時は「シングルテナントですか?」だけでなく、アプリ、DB、ファイル、検索インデックスをどこまで共有するかを聞く方が具体的です。1社1環境でも設定ミスや運用リスクは残るため、「専用環境だから絶対安全」とは考えません。
チェック3:同じ会社の中で閲覧範囲を分けられるか
社内AIでは「他社へ漏れない」だけでなく、「自社内でも見せてよい人だけに見せる」ことが重要です。全社向け就業ルールと、人事評価資料や経営資料を同じ検索対象にするべきではありません。
ユーザー招待制か、ロールを分けられるか、部署やワークスペース等で資料範囲を分離できるかを確認します。必要な会社ではSSOやMFA、IDプロバイダー連携の対応範囲も見ます。
詳しい考え方は社内AIのアクセス権限はどう分ける?で整理しています。
チェック4:外部AIへ何を送信するか
社内AIがOpenAI、Google、Anthropic等の外部AIを使う場合、「どの会社のAIを使うか」だけでは十分ではありません。実際に送るデータ範囲を確認します。
質問例:「資料をアップロードした時点で元ファイルを外部AIへ送りますか?」「Embeddingはどこで作りますか?」「回答生成時に外部AIへ送るのは質問と関連箇所だけですか?」
RAGは、検索した情報を回答生成へ使う仕組みの総称です。RAG対応だから外部送信がゼロになるわけではありません。詳しくはRAGのデータフロー解説も参考にしてください。
チェック5:学習利用とデータ保持を分けて確認する
「入力データをAIモデルの学習に使いません」という説明は重要ですが、それだけでは保持状況は分かりません。学習に使わなくても、不正利用監視、障害調査、アプリ状態の保存等で一定期間データが残るサービスがあります。
たとえばOpenAIは、APIのビジネスデータをデフォルトでモデル学習に使わない一方、標準APIでは法令上の例外等を除き入力・出力が最大30日保持される場合があり、対象要件を満たせばZero Data Retentionを申請できると案内しています。
確認するのは「学習に使うか」と「どれくらい残るか」の2点です。
チェック6:暗号化は通信だけでなく保存時も見る
ブラウザとサービス間のHTTPS/TLSは現在では基本的な対策です。社内資料を預けるサービスなら、サーバーやストレージ、バックアップ上の保存データがどう保護されるかも確認します。
「暗号化しています」という説明があれば、可能なら対象範囲を確認してください。元資料だけか、DB、検索インデックス、バックアップまで含むのかで意味が変わります。
チェック7:バックアップは「ある」だけで判断しない
バックアップは可用性のために必要ですが、同時に「データの複製先が増える」という意味もあります。次を確認すると実態を把握しやすくなります。
- 何日・何世代を保持するか
- 本番環境と別系統の保存先があるか
- バックアップ自体が暗号化されているか
- 復旧手順やテスト方針があるか
- 解約後、バックアップも削除対象になるか
チェック8:解約後削除の範囲と期限
「アカウントを削除できます」だけでは不十分です。本番データ、バックアップ、会話履歴、ログ、暗号鍵、連携先に残るデータまで、何をいつ消すのかを確認します。
特に社内資料を扱う場合、契約終了後の削除期限が明文化されているかは比較しやすいポイントです。
チェック9:サービス運営者のアクセス権限
障害対応や保守のため、サービス提供者がインフラ権限を持つことはあります。重要なのは、その権限で顧客の本文データまで常時見られるのか、顧客依頼時だけ一時アクセスするのか、記録を残すのかです。
運営会社の規模だけで安全性を決めるのではなく、誰が・何のために・どの権限を持つかを確認します。加えて、障害時の連絡方法、SLAの有無、サービス終了時のデータ回収方法なども契約判断に関係します。
チェック10:AIが間違える前提の設計になっているか
情報漏えい対策だけが社内AIの安全性ではありません。間違った回答を社員が正しいと思い込む「業務上の安全性」もあります。
出典資料を確認できるか、資料に答えがないときに無理に断定しないか、古い資料と新しい資料が混ざったときの運用が決まっているかを確認します。重要な判断は、AI回答だけで完結させず元資料へ戻れる設計が望ましいです。
比較するときにそのまま使える質問表
| 確認項目 | 提供会社への質問例 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 保存場所 | 元資料・検索インデックス・会話履歴はどこに保存されますか? | 本番とバックアップで地域が違う場合がある |
| 顧客分離 | 他社とアプリ・DB・ファイル・検索インデックスを共有しますか? | 「専用環境」の対象範囲を確認する |
| 社内権限 | 人事・経営資料を一般社員から分離できますか? | ロールだけでなく資料範囲も見る |
| 外部AI | 外部LLMへ送るデータを具体的に教えてください | Embedding用の外部送信も確認する |
| 学習・保持 | モデル学習に使われますか?入力・出力は何日残りますか? | 「学習しない」と「保持しない」は別 |
| 暗号化 | 保存時暗号化の対象は元資料・DB・バックアップまで含みますか? | 通信時TLSだけの場合もある |
| バックアップ | 何世代保存し、どこへ保存し、どう復旧しますか? | 削除後も世代が残る期間を確認する |
| 解約後削除 | 本番・バックアップ・ログ・鍵を何日以内に消しますか? | 外部AI側の保持は別管理の場合がある |
| 運営者権限 | 保守担当者は顧客資料を常時閲覧できますか? | インフラ権限とアプリ閲覧権限を分けて確認 |
| 回答確認 | 回答の出典や元資料を利用者が確認できますか? | 精度の数字だけでなく検証方法を見る |
小規模企業なら、まず5項目から確認すればいい
15〜50名程度で専任の情報システム担当者がいない会社では、巨大企業と同じチェックシートを最初から埋めようとすると導入自体が進みません。最初の足切りとして、次の5点を確認すると判断しやすくなります。
- 保存場所:資料と会話がどこに残るか
- 外部送信:外部AIへ何を送るか
- 閲覧権限:社員ごとに見せる範囲を分けられるか
- 学習・保持:学習利用と保持期間が説明されているか
- 削除:解約後にいつ、どこまで消えるか
この5点が曖昧な場合は、MFAや高度な監査機能の有無を比べる前に、まず基本のデータフローを確認した方がよいでしょう。
Nexfila AIの場合、この10項目はどうなっている?
ここまでのチェックリストは他社サービスにも使える一般的な判断軸です。参考として、2026年9月25日時点のNexfila AI標準Pilotへ当てはめると次のとおりです。
顧客データはConoHa VPS 3.0の日本国内データセンターへ保存します。
1顧客につき1台のVPSを基本とし、アプリ・DB・資料・検索インデックスを顧客間で共有しません。
招待制。Owner / Admin / Contributor / ViewerのRBACと、workspace分離を標準範囲で利用できます。
OpenAI APIへ送るのは、質問、必要な直近会話、顧客環境内検索で選んだ関連文書の抜粋です。元文書ファイルそのものや、検索に不要な全文は標準構成では送りません。
OpenAI APIへ送ったデータはモデル学習目的に利用されません。標準APIでは不正利用監視ログとして最大30日保持される場合があります。Nexfila側の会話履歴は30日を標準とします。
顧客データをLUKS2暗号化領域へ保存し、ConoHa日次バックアップ14世代に加えて、resticで暗号化したCloudflare R2バックアップを標準方針とします。
Nexfila管理下の本番データ、VPS、バックアップ、顧客用暗号鍵・credentialを契約終了後7日以内に削除・失効します。
Nexfilaは顧客workspaceのOwner / Adminを常設で持ちません。インフラ保守権限は保持し、顧客資料確認が必要な場合は顧客の明示依頼による一時権限を使う方針です。
複雑な大規模IdP同期や高度SSOは標準Pilot外です。Pilotでは稼働率・復旧時間の数値SLAやサービスクレジットも設定していません。これらが必須要件なら契約前に適合性を確認する必要があります。
回答と参照元を確認できる構成を前提にします。AIが古い資料と新しい資料の正誤を自動保証するものではないため、重要な判断では元資料も確認します。
詳細仕様はセキュリティ・データ取扱いに公開しています。
「安全ですか?」より、具体的な質問に分解する
社内AIに絶対的な「安全/危険」の二択はありません。扱う資料、利用人数、社内ルール、必要な認証水準によって必要な対策が変わるからです。
導入前は「このAIは安全ですか?」ではなく、「資料はどこに保存されますか」「外部AIへ何を送りますか」「人事資料を一般社員から分けられますか」「解約後はいつ消えますか」と質問を分解すると、サービス同士を比較しやすくなります。
個人情報保護委員会も、生成AIへ個人情報を入力する場合には、利用目的の範囲やサービス提供者が入力データをどのように取り扱うかを十分確認するよう注意喚起しています。
よくある質問
社内AIは国内サーバーなら安全ですか?
国内サーバーは重要な確認項目の一つですが、それだけでは判断できません。外部AIへの送信、社内権限、暗号化、保持、削除、運営者アクセスまで合わせて確認してください。
RAGなら社内資料は外部AIへ送られませんか?
一概には言えません。RAGは検索した情報を回答生成に使う仕組みであり、元文書や抜粋をどこまで外部へ送るかは実装ごとに異なります。
生成AIへ入力したデータは学習に使われますか?
サービス・契約・API設定によって異なります。「モデル学習に使うか」と「監視や運用のため何日保持されるか」を分けて確認してください。
小規模企業が最低限確認すべき項目は?
保存場所、外部AIへ送る範囲、社内権限、学習利用と保持期間、解約後削除の5点から確認すると実務的です。
SSOやMFAがない社内AIは使えませんか?
必要性は会社ごとに異なります。扱う情報の機密性や既存のID管理に応じて、標準対応・追加対応・未対応のどれかを確認し、自社の要件と照合してください。
参考にした一次情報・公開情報
- 経済産業省「AI事業者ガイドライン 第1.2版」
- IPA「セキュリティ担当者のための生成AIセキュリティ」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
- OpenAI「エンタープライズプライバシー」
- Nexfila AI セキュリティ・データ取扱い
- Nexfila AI RAGのデータフロー